乗り越えられない。つらすぎる。ごめんよ。
【ストーリー】
ボストン郊外で便利屋をしている孤独な男リー(ケイシー・アフレック)は、兄ジョー(カイル・チャンドラー)の急死をきっかけに故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ってくる。兄の死を悲しむ暇もなく、遺言で16歳になるおいのパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人を引き受けた彼は、おいの面倒を見るため故郷の町に留まるうちに、自身が心を閉ざすことになった過去の悲劇と向き合うことになり……。
【キャスト】
ケイシー・アフレック:リーチャンドラー
ミシェル・ウィリアムズ:ランディ
カイル・チャンドラー:ジョー・チャンドラー
ルーカス・ヘッジズ:パトリック
カーラ・ヘイワード:シルヴィー
【スタッフ】
監督:ケネス・ロナーガン(ギャング・オブ・ニューヨーク/脚本)
製作:ケネス・ロナーガン,キンバリー・スチュワード,マット・デイモン,クリス・ムーア
2016年 137分
<シネマトゥデイより>
マンチェスター・バイ・ザ・シーは暗く重い映画。退屈だが退屈じゃない。
明るいシーンは137分の中に計10分ほどだろう。
終始重たいのだ。常に兄の死を過去を抱えているのだ。
ケイシーアフレック演じるリーもルーカス・ヘッジ演じる兄の息子パトリックも。
物語は兄の死から始まる。
故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻り、兄の遺言により甥のパトリックの後見人になる所からこの物語は動き出す。
兄は息子のパトリックの後見人をリーにする事を伝えていなかった。
なぜなら前もって言うと断ると思ったからだ。
リーは過去に自分の子供を事故とはいえ自分のせいで亡くしている。
その過去があるから周りのとの繋がりを断ち地元を離れ友も作らず生活していた。
それなのに後見人に指名され、地元に戻らざるをえず、甥の面倒を見るという関係を作らされたのだ。
当然断ろうとするのだが、好きだった兄との遺言であり幼い頃は一緒に仲良く遊んでいた甥という事で苦悩する。
パトリックも父の死との向き合い方が分からない。
苦悩の137分である。楽しくはない。物語に浮き沈みもない。常に沈んでいる。
それなのに退屈させないのは役者の素晴らしさと、マンチェスターという舞台全てが完璧に合わさっているからだろう。
マンチェスター・バイ・ザ・シーでアカデミー賞主演男優賞受賞。
この受賞に誰も文句を言えないだろう。
それぐらい圧巻だった。
正直前年のディカプリオの受賞に比べると派手さはない。(“レヴェナント 蘇りし者”で受賞)
なんたって雪山でサバイバルをし、獣の生肉を食べ、寒さを凌ぐために動物の体の中に潜り込むという、、
そんな映画の翌年がこの『マンチェスター・バイ・ザ・シー』である。
落差が激しすぎる。
それでも納得の受賞。
ケイシー・アフレックは感情を内に秘めるのが本当にうまい俳優さんだ。
今回のリーは心が壊れた役。
日常というロープをギリギリ落ちずに歩いているような。
少しでも何かあるとそのロープから落っこちてしまい、抑制が効かなくなる。
そのギリギリ日常を生きている演技が本当に上手なのだ。
悲しみを背負って罪悪感を抱えながら生きています。というわかりやすい演技は全くない。
でも何かを抱えているなと思わせる表情と声。
このリーという役はケイシー・アフレックじゃないと成立しなかっただろうなと思わせるぐらいハマり役だ。
過去にもブラッド・ピット主演『ジェシー・ジェームズの暗殺』で助演男優賞にノミネートをされているが、
その時の役柄に少し似ている。この内に秘めた演技が上手いというか、似合う役者さんだ。
ただ、『ジェシー・ジェームズの暗殺』はめちゃめちゃ退屈なのでブラッド・ピットとケイシー・アフレックが好きでしょうがない人以外は見なくていいでしょう。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のまとめ
「乗り越えられない。つらすぎる。ごめんよ。」
この終盤に出てくるリーがパトリックに語るセリフにこの映画の全てが凝縮されていると思う。
兄の死を乗り越えるのではなく、乗り越えられない。
それを正直に伝える事が出来るようになったのがリーの成長だ。
死を乗り越えて強く生きる映画はよく見るが、
乗り越えられないと伝える映画は少ない。
しかし、どちらがリアルかといえば僕は後者だと思う。
人の死は簡単に乗り越えられないものだ。
そして乗り越える必要もない。
この映画は是非一人で見て欲しい。
こんなにも退屈で考えされられる映画はなかなか出会えないだろう。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のスタッフとキャストの他の映画
監督:ケネス・ロナーガン:ギャング・オブ・ニューヨーク
ケイシー・アフレック:『ゴーン・ベイビー・ゴーン』
ミシェル・ウィリアムズ:『ブルーバレンタイン』
ルーカス・ヘッジズ:『ムーンライズ・キングダム』