怒りは荷物だ。
【ストーリー】
「ファイト・クラブ」のエドワード・ノートン主演の衝撃作。白人至上主義の極右組織“ネオナチ”のメンバーとなったある兄弟の悲劇を通し、現代アメリカの暗部を衝いてゆく。共演にエドワード・ファーロング。父を黒人に殺された恨みから、白人至上主義グループのメンバーとなったデレク。やがて殺人事件で刑務所送りになった彼が出所してきた時、デレクは自分を崇拝する弟がメンバーとなっている事実を知る。
【キャスト】
エドワード・ノートン:デレク・ヴィンヤード
エドワード・ファーロング:ダニー・ヴィンヤード
ビヴァリー・ダンジェロ:ドリス・ヴィンヤード
フェアルーザ・バーク:ステイシー
エイヴリー・ブルックス:ボブ・スウィーニー
ステイシー・キーチ:キャメロン・アレクサンダー
エリオット・グールド:マーレイ
イーサン・サプリー:セス・ライアン
【スタッフ】
監督:トニー・ケイ
製作総指揮:ビル・カラッロ
脚本:デヴィッド・マッケンナ
音楽:アン・ダッドリー
1998年 119分
<allcinema ONLINEより>
『アメリカンヒストリーX』は今だからこそ見るべき映画。
この映画は作られてから20年経っている。
でも、今だから見るべきだ。
白人至上主義の主人公の変化を中心に描いている差別がテーマの映画。
この差別には白人や黒人だけでなく、メキシコ人やユダヤ人なども含まれる。
これらの差別は日本で生まれ日本で育った僕には完全に理解出来ていないだろう。
本やニュースで見聞きしていても、そこに温度は伴わないからだ。
そんな僕でもこの映画を見たら考えさせられた。
見た後は何か重い物を心に落とされる。
はっきり言うと疲れる。
それでも今見なければいけない映画です。
世界に難民が溢れ、トランプ大統領がメキシコに壁を作ろうとし、EUが移民で頭を抱えている今だからこそ。
白人至上主義に傾倒する芽。
ストーリーはエドワード・ノートン演じる白人至上主義のデレクが刑務所から3年ぶりに帰ってくる所から始まる。
そこから過去はモノクロで、現在はカラーで描かれる。
刑務所に入る前のデレクは白人至上主義の狂人だった。
ヒトラーを崇拝し、ネオナチ集団のリーダーだった。
それを裏で巧みに操っていたのがキャメロンである。
キャメロンの洗脳もあるのだが、デレクにはもともと白人至上主義に傾倒してしまうきっかけがあった。
それは消防士の父の存在である。物語の中盤までは父親が仕事中に黒人の売人に殺されたのが白人至上主義に傾倒するきっかけとなっていた。
だが、弟であるダニーの記憶だとそうではない。
デレクが高校生の時である。その時の教師が黒人で、その先生がいかに素晴らしいかデレクは食事中に話していた。
ただ、黒人文学を教えていると聞いた途端に父親の態度が変わる。
父親は職場の環境のせいで黒人を差別していたのだ。その話をデレクに怖いくらい真剣に話す。
「お前は白人を捨てて黒人を取るのか」「黒人の洗脳だ」と。
ここに白人至上主義に傾倒する芽が既にできていたのだ。
アメリカンヒストリーXのデレクの変化。怒りは君を幸せにしたか。
そんなデレクが刑務所の生活で変化する。
最初は刑務所内でも白人とだけつるんでいたが、その白人達が刑務所内のメキシコ人と取引をしている所を見て幻滅する。
ここにいる白人は誇りのカケラもない連中だと。
そしてデレクは白人からも孤立する。
そしてある日犯される。
白人達からの庇護がなくなったデレクは当然黒人にも狙われる。
だが、出所するまで手を出される事はなかった。
何故なら刑務所内で唯一親しくなった黒人が口添えしてくれていたからだ。
彼との交流によってデレクは変わる。
元々デレクは聡明な青年だったのだ。
さらに高校時代の黒人の教師(現ダニーの学校の校長)に言われる。
いくら怒っても答えは出ない。怒りは君を幸せにしたか?
これらのお陰でデレクは白人至上主義を疑問に思い、ネオナチ集団からの脱退を決意するのだった。
『アメリカンヒストリーX』の象徴はラストシーン
デレクがネオナチ団体から脱退し、ダニーも一緒に脱退をさせ家族で再出発をはかって終わる。
そんなラストに向かうと思ったし、実際それが綺麗な終わり方だろう。
だがこの映画は違う。
そんなよくある映画ではない。
ラストはダニーが学校のトイレで黒人生徒に撃ち殺されて終わる。
その後ダニーが学校の校長(デレクがお世話になった黒人教師)に出されてた宿題がナレーションで流れる。
その宿題の名前が『アメリカンヒストリーX』
テーマは兄弟で、デレクが投獄された経過を分析し、それが現代のアメリカにおけるダニーの生き方をどう変えたか。ダニーや家庭にどんな衝撃を与えたか。
それをレポートで書かせたのだ。
その中身がこれだ。
これが僕の学んだことだ。僕の結論だ。
憎しみとは耐え難いほど重い荷物
怒りに任せるには人生は短すぎる
デレクは引用文が好きだ レポートの最後は先人の言葉を引用してしめくくる
僕は1つ選んだ
“我々は敵ではなく友人である 敵になるな 激情におぼれて 愛情の絆を断ち切るな 仲良き時代の記憶をたぐりよせれば 良き友になれる日は再び巡ってくる”
このラストは是非見て欲しい。
この後デレクはどうしたのか、家族がどうなったのかは語られない。
差別が連鎖する事を強く訴えてくる。
アメリカンヒストリーXにおけるエドワード・ノートンの怪演とエドワード・ファーロングの可愛さ
この2人本当の兄弟ではないですよ。エドワード被りしててややこしいですが。
エドワード・ノートンのはこの映画の為に20kg増量して挑みました。
スキンヘッドでムキムキのカリスマリーダー役。
この映画は彼なしでは成立しなかったであろう狂気を帯びた演技をしている。
ちなみにアカデミー賞主演男優賞にノミネートされている。
どのシーンも好きなのだが、やはりハイライトは警察に捕まるシーンだろう。
父親の形見である車を黒人に盗まれそうになった時、1人は射殺しもう1人は縁石を口に咥えさせ後頭部を踏みつけて殺害。
ダニーに首の骨が折れる音を初めて聞いたと言わせるほど衝撃とトラウマを植え付けたシーンだ。
この後警察に捕まるのだが、トランクス一丁で腕を頭の後ろに組んで跪く。
その時にダニーを見て笑うのだ。その表情が完全に逝っていた。人を殺したのに後悔のかけらもない表情。
この狂気を帯びた表情を是非見て欲しい。
弟のエドワード・ファーロングの可愛さよ。
この映画を見た後に彼を検索をしないでください。確実にショックを受けるので。
ほとんどの人は『ターミネーター2』のジョン・コナー役でこの俳優さんを知っていると思います。
この映画では兄を慕い家族を愛する弟ダニーを見事に演じています。
デレクに憧れてるからこそ、刑務所から帰って来た時の変化に戸惑い反発する。
でも愛してるからこそデレクの話をしっかり聞き入れ自分も変わっていく。
だからこそラストは衝撃だった。せっかく変われるはずだったのに。
この兄弟のハイライトは間違いなく部屋のポスターを剥がす所だ。
二人が黙ってナチスのポスターなどを剥がしていく。
これまでの兄弟を見ていれば誰もがグッとくるはずだ。
『アメリカンヒストリーX』のまとめ
この映画のストーリーはわかりやすい。
デレクが出所し更生、ネオナチの団体を弟と共に抜け、家族で一緒に生活をやり直そうとする所で弟が殺される。
たった1行でまとめてしまったが、話はこれだけだ。
決して楽しい話ではなく悲しい結末を迎えるこの映画を面白いと表現するのは語弊があるかもしれない。
でも見ていて退屈する事はなく、娯楽作品としても成立している。
このギリギリのバランスが他の映画と一線を画している。
『アメリカンヒストリーX』を見て何も感じない人は差別を人ごとだと思っているのだろう。
今の日本で生きていたらこの手の差別は見かける事はない。
でも先の事は分からない。未来の日本は移民が来てもおかしくない状況だ。
その時になればこの映画が響くようになるのかもしれない。
でも、前もって見ていた方がいいと思う。
ちなみに監督のトニー・ケイはこの映画と『デタッチメント 〜優しい無関係〜』の2本しか撮っていない。
この映画も良作なので是非。
『アメリカンヒストリーX』のスタッフとキャストの他の映画
監督:トニー・ケイ:『デタッチメント 〜優しい無関係〜』
エドワード・ノートン:『エドワード・ノートン おすすめ映画ランキングまとめ』
エドワード・ファーロング:『ターミネーター2』
*本ページの情報は2018年10月時点のものです。
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